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「あーっもう！」 龍麻の叫び声と共に、トランプが宙を舞った。 ばらばらと降ってくるカードの向こう側には、やれやれといった顔で苦笑している村雨がいる。 「だからいってんだろ先生…勝てねえって」 そう言いながら、村雨は自分の手札をテーブルの上に置くと、龍麻が癇癪をおこして放り投げたトランプを拾い集めた。 龍麻は、テーブルの上に伏せられた村雨の手札をひっくり返す。 ５枚の手札は全てダイヤ。いわゆる、ポーカーのフラッシュ。 龍麻はついでとばかりにそのカードも村雨の方に投げつけた。 「…先生よう…」 屈んでいた上から降ってきた追い討ちのカードも全部集め終わると、村雨はそれを綺麗に揃えてテーブルの上に置いた。 龍麻はむくれてそっぽを向いている。 他の仲間になぞ絶対に見せないであろう、そのお子様のような我侭な態度に、村雨はついくっくっと声を出して笑ってしまう。 「何だよ」 「何でもねえよ…で、まだポーカー続けるかい？それとも他のにするか…」 先ほどの笑い声に、さらにむくれた龍麻が向き直って村雨を睨みつけた。しかし、そ知らぬ顔で村雨はカードをシャッフルし始める。 慣れた手つきで行われる鮮やかなカードさばきに、龍麻はふと目を奪われた。 「…どうする？先生」 村雨は再びカードを揃え終わると、とん、と龍麻の目の前にカードを差し出した。 声をかけられて、龍麻ははっとしたように顔をあげる。そして差し出されたカードを受け取ろうとしたが、手を引っ込めた。 「…………もういい」 そう言って、龍麻はテーブルの上につっ伏した。上目遣いに村雨の顔を覗き込む。 「村雨…カードさばき上手いな…」 「そりゃあな」 「…イカサマしてないか」 その台詞に、思わず村雨は吹き出した。 「どうやってするんだよ、先生…あんたがカード切って配ったんだぜ？」 「んー…そうなんだよなあ」 少し口を尖らせて、龍麻は考え込むように目を伏せた。 長い前髪が邪魔をして、表情がよく見えない。村雨はそれを少し不満に思いながら言葉を続ける。 「だいたいなあ先生、自分のカードにあんな風にあたっちまったらカードに嫌われちまうモンだぜ」 「何だよ、じゃこのカードは俺よりお前の方が好きって事？」 龍麻は少し顔を上げて、目の前のカードを睨み付けた。 「そうだろうな」 「…裏切者め」 そう言うと、龍麻はカードをこつん、と殴った。 「持ち主に似てるってだけじゃねえのか」 龍麻の態度が妙に可愛く見えて、村雨はにやにやしながら言った。 一瞬その意味をつかみかねた龍麻が、次の瞬間真っ赤になる。 「ばっ…何自惚れてやがる！！」 怒鳴って、そのカードの束をわしづかみにした。 てっきりもう一回カードが降ってくるものと思い、村雨は思わず身構える。 だが、予想に反して、龍麻はカードを掴んだ手をすっと村雨の胸の前に突き出しただけだった。 「やる！」 「…は？」 「持ち主裏切ってお前になつくようなカードはいらねえ！お前が使え！！」 「へ…え、そりゃまた…」 これまた予想外の龍麻の申し出に、村雨は目を丸くした。 次ににやりと笑いを浮かべると、龍麻の手からカードを受け取る。 そして次の瞬間、自分の方に突き出された龍麻の腕を掴んでぐいっと引っ張った。 「！」 不意をつかれた龍麻はバランスを崩して、そのまま村雨の腕の中へと転がり込む。 村雨は、そんな不自然な姿勢の龍麻を思いきり抱き締めると心底嬉しそうな顔をした。 「あんたからプレゼント貰えるとはなあ…最高だぜ。これで先生そのものも俺のモンになってくれたら言う事ナシなんだがな」 「馬鹿ぬかしてないで離せ！苦し…」 龍麻はジタバタと手足をばたつかせて足掻いていたが、ふと村雨の顔を下から覗きこむと脱力したようにその抵抗をやめた。 いきなり大人しくなった龍麻に、流石に村雨は不思議そうな視線を向ける。 「…どうした？先生…」 「……なあ、俺って普段そんなにケチか？」 「ああ？」 「なんか…カードあげただけでそんなに嬉しそうな顔されるとさあ…」 かなりずれた龍麻の発言に、村雨の方も毒気を抜かれて脱力した。 暫く、顎に手をやって何かしら考え込む素振りを見せる。その様子を龍麻もじっと見つめている。 だが村雨は、龍麻と目が合うとからかいの色を含んだ笑みを浮かべて言った。 「まあ、俺の欲しいものをいつまでたってもくれないって点じゃあケチかな」 「ええい、贅沢ぬかすな。高望みは話が別だ」 「くくっ…自分で『高望み』とか言うあたりがなあ」 「俺は自分は安売りしないの！…って顔を近づけるな顔をー！」 あわよくば不埒な行動に傾れ込みそうな村雨を必死に牽制する。 腕の中で抵抗を再開した龍麻を笑いながら解放してやり、村雨はさっき受け取ったカードを見つめながら言った。 「有難くもらうぜ、先生。このカードがありゃあ負ける気がしねえ…世界を丸々手に入れる事だって出来そうだ」 「いや、それは駄目」 「？」 「世界は俺のものだから」 「ははっ…違いねぇ。だがな先生、このカードなら『先生ごと手に入れる』って事も出来るかもしれねぇぜ？」 「……やっぱそのカード返せ」 「冗談だよ先生」 「どこまで冗談だか…」 毒づく龍麻の肩をぽんぽんと叩いたあと、村雨はふと思い出したように自分の胸の内ポケットに手をやった。 村雨が普段使っているらしい、別のトランプを取り出す。 それを軽くシャッフルしながら龍麻に言った。 「代わりといっちゃナンだか、これ先生にやるよ」 「え？いや、代わりなんていいけど」 「そう言うなって。これも持ち主に似てるんだぜ」 村雨は手の中で器用にそのカードを揃えると、ポーカーでやるように龍麻に５枚カードを配る。 龍麻は手元に来たカードを何気なく開き…苦笑した。 「なあ？先生」 「言ってろ」 二人揃って、くすくすといたずらっ子の様に笑う。 手元のカードは、Ａが４枚にＪＯＫＥＲ１枚。 まったくもう…と呟いて、龍麻はそのファイブカードを自分の目の前でひらひらと振る。 ふいに手が止まり、視線が村雨に向けられた。 予期せずその力のある瞳と目が合い、どきりとさせられる。 一瞬息を呑む村雨の様子を見た龍麻は、ん？と不思議そうな表情を浮かべた。 だがすぐに、にっと笑いを浮かべると持っていたカードを扇のように広げて口元を隠してみせる。 「サンキュ、村雨。これ貰うよ。なんたってここまで俺の事好いててくれるんだもんな。…この、カード」 わざわざ最後を強調してみせると、龍麻は持っていたカードにチュッとキスをした。 途端、龍麻はもう一度思いきり腕を引かれ、村雨の腕の中に捕まってしまう。 「―――！」 龍麻が文句を言おうと口を開く前に、村雨は耳元に唇を寄せるとぞくりとするような低い声で囁いた。 「…先生、カードにだけ、それかい……？」 End.
オチてない。オチてないですよ（汗） ほのぼのというより、バカップル…（死） |
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